回想〜常陸宮殿下のご視察〜
あれは平成6年5月のことでした。岩手県秘書課から、貴施設を見学したいので宜しくとの電話がありました。翌日、秘書課長と課員3人が当施設を訪れ、各階を見て廻り、トイレから医局に至るまで徹底的に写真を撮って帰りました。どなたかが視察に来られるのかと考え、当時の大内啓伍厚生大臣が来県されると聞いたのを思いだし、厚生大臣が来られるものと決め付けておりましたが、すぐに帰京されたとの話を聞き、その後は忘れていました。6月24日に岩手県商工労働部より当老人保健施設イーハトーブへの常陸宮ご夫妻のお成りについての打診があり、当時理事長であった父に相談すると、亡き祖父母が聞いたらいかに喜んだことかと父は感激し、喜んでお受けすることにしました。9月15日の新聞紙上に常陸宮ご夫妻の当施設視察が発表され、本番の為の
リハーサルが2回行われました。そして、次のような注意事項を守るように言われました。報道陣のカメラは国民の目であるので、報道陣にお尻を向けないこと、殿下とカメラとの間に入らないこと、出来るだけ殿下の前を横切らないこと、記念植樹の手袋にボタンが付いていると皇室の方々はボタンを全部留めてから植樹されるので、ボタンが付いていない手袋を用意することなどの指示がありました。また、赤絨毯を敷いたり、礼服を着たり、新たに花を活けたりなどの特別なことをしないで、ありのままの姿を見て頂くようにと言われましたが、施設内の定期清掃の時期をずらし、窓ガラス拭き・玄関ポーチの清掃も行いました。こうして、準備万端整いましたが、当日の天候だけが一番気掛かりでした。10月2日の当日は、台風一過の絶好の秋晴れとなりました。午前11時頃より、警備関係の方々が配置につき、予定より8分遅れて午後1時38分お召し自動車がご到着、私の喉はカラカラに渇きそれからの45分間は緊張の連続でした。
常陸宮殿下はあまりお話しにならないため、殿下と華子様との間隔が開き過ぎてしまい、私(先導者という役目)はどちらにご説明したら良いのか判らず、おろおろしてしまいました。お帰りになる際、記念植樹をして頂きましたが、殿下は手袋をお使いにならず、華子様にも手袋をお渡ししようとしたら、華子様は黒の手袋をもっておられ、用意した白の手袋は使用されませんでした。その記念植樹も今では3m程になり、施設に入所している方の励みになっていますので大切に手入れをして育てています。後日の回診時、「先生のお陰で冥土のおじいちゃんに持っていく良い土産話が出来た」と、患者さんから喜んだ言葉をもらったのが何よりも私には嬉しいことでした。